どうもみなさん。
コロナ禍で換気が叫ばれる様になって久しい今日この頃。ご自身の勤めている事務所などの換気は大丈夫ですか?
換気について勉強した人も多いと思います。今回はそんな換気のおはなし。「実際に建物を管理している人はこう見ている」というのが少しでも伝われば良いなとおもいます。
・換気について知りたい人
・ビル管理の人や衛生管理の人
・ビル管理の新人さん
換気の定義
まず、内容に入っていく前に「換気」とは何?という意味をおさらいしたいと思います。
換気:
建物などの内部の汚れた空気を排出して、外の新鮮な空気と入れかえること。
(参照:goo国語辞書)
つまり屋外(外)の空気を新鮮な空気、室内の空気を汚れた空気として考えます。換気とは、屋外(外)の新鮮な空気を室内に取り込み、室内にあった空気を外に出すことと定義されています。
イメージとしてはこんな感じです。
どうやって換気しているの?
換気の方法は2種類あります。1つは自然換気、もう1つは機械換気です。
窓を開けるなどして自然に任せて室内に外の空気を取り込む方法
換気扇などの機械によって強制的に室内の空気を入れ替える方法
※この記事では機械換気について説明しています。
換気を考える時に必要な用語
ビル管理の人間が換気を考える時には以下の用語を使っていきます。これを知っておくとちょっとプロっぽくなります。
よく使う用語
OA(オーエー)
Out(side)Air [アウト(サイド)エアー]の略です。屋外(外)の空気のことを指します。外気(がいき)と言います。
SA(エスエー)
Supply Air [サプライエアー]の略です。OA(外気)をフィルタなどを用いて不要なものを取り除いた新鮮な空気のことを指します。給気(きゅうき)と言います。
RA(アールエー)
Return Air [レターンエアー]の略です。室内で使われた汚れた空気のことを指します。還気(かんき)と言います。
このRAだけ換気と還気で言い方が同じになってしまうため、通称「レターン」と言われています。「リターン」の方が正しいのではないかと思いますがみんな「レターン」を使っていますね。どちらでも良いと思います。
EA(イーエー)
Exhaust Air [イグゾーストエアー]の略です。屋外(外)に排出する空気のことを指します。排気(はいき)と言います。
陽圧(ようあつ)
その部屋の圧力が、隣接する部屋の圧力より高い状態のことを指します。建築士などはこれを正圧(せいあつ)と言っています。
陰圧(いんあつ)
陽圧とは逆に、その部屋の圧力が、隣接する部屋の圧力より低い状態をいいます。建築士などはこれを負圧(ふあつ)と言っています。
これらの用語を使うときとは
例を載せておきます。専門用語になってしまいますが、AHU(エアハンドリングユニット)や全熱交換器といった屋外や室内の空気をやり取りする機械を考える時に利用します。具体的には下の図の様な空気のやりとりになります。
外気であるOAを取り込んで、ろ過して求めている温度や湿度に調整した空気を部屋に送ります。この空気がSAです。部屋で使用された空気はRAとして機械に戻ってきます。そこで屋外に排気する分と再利用する分とに分けられ、屋外に排気する分がEA、再利用される分がRAとなります。
商業ビル、テナントビルや病院などで多く取り入れられている機械です。窓が無いのに換気ができているのはこれらの機械のおかげです。
機械換気の種類
機械換気はその機械を設置する場所によって3つに分けることができます。
※図記号はちょっと違いますが気にしないでください。
1種換気
給気口と排気口にそれぞれに機械換気設備を設けて換気を行う方式です。
下の図のイメージになります。
・陽圧や陰圧を自由に調整できる
・完全な換気を実現しやすい。
この換気方式は給気にも排気にも機械換気を設置することで、給気を止めると陰圧室となり、排気を止めると陽圧室となるため部屋の運用上の自由度が高くなるのが利点です。また、給気と排気の両方に機械換気を設置することで狙ったとおりに換気させる事ができるため完全な換気を実現しやすい方式となります。
2種換気
給気口にのみ機械換気設備を設けて換気を行う方式です。
下の図のイメージになります。
・陽圧にしたい部屋で行う方式
・排気はなりゆきに任せることになる
給気に機械換気を設置することで陽圧を確保するための換気方式になります。病院の手術室やクリーンルームなど、外部から粉塵などを取り込みたくない部屋で用いられている方式になります。
3種換気
排気口にのみ機械換気設備を設けて換気を行う方式です。
下の図のイメージになります。
・陰圧にしたい部屋で行う方式
・給気をなりゆきに任せることになる
排気に機械換気を設置することで陰圧を確保するための換気方式になります。トイレや感染症の部屋など、その部屋の空気を隣接する部屋に漏らしたくないところで取り入れられる方式になります。
全部1種換気で良いのではないかと思いますよね。そこは用途とコストを見て選別していくことになります。日々の電気代もかかってきますし、1台でよいところは1台が良いです。
換気風量の測定方法
換気風量は風速計と手計算で出していきます。お手製のダクトでも作れば給気口の面積を一定にできるので風量計も使えるとは思いますが、建物の給気口の形や大きさはいろいろあり、さらに真下には机などモノがいろいろ設置されていて測定しにくい場所も多いので、結局は風速計で測定して計算して出しています。風量の単位は” ㎥/h ”です。
計算方法を以下に載せておきます。
開口面積[㎡]×風速[m/s]×3600[s]=風量[㎥/h](1時間当たりの風量)
このようにして求めています。竣工図ではこの風量をCMHと書いてあります。同じ意味です。Cube Meter Hour の略です。
換気の基準
ここからは、どのくらい風量があれば良いの?という疑問について書いていきます。このあといくつか紹介していきますが、先に結論を書いておきます。
30㎥ / (h・人)を確保していれば良い
1人あたり1時間に30㎥の風量を確保していれば良いです。
例えば4人いれば120㎥/h(1時間に120㎥)必要ということになります。
建築基準法上の有効換気量
V=20A/N
V:機械換気量(㎥/h)
A:床面積
N:1人当たりの占有面積
建築基準法の有効換気量はこの式で決まります。これは1人あたりの有効換気量が20㎥/hであることを表しています。
ビル管法に基づく厚生労働省の要請換気量
30㎥/(h・人)
実はビル管法では風量の規定はありません。ですがコロナ禍を受けて厚生労働省が発表した要請換気量はあります。ビル管法と混同されていることも多いですがその理由は、厚生労働省の「ビル管理法の考え方に基づく必要換気量(一人あたり毎時30m3)を確保」という言葉だと思っています。「ビル管法の考え方に基づく」とは、ビル管法では二酸化炭素、一酸化炭素や粉塵量などを測定していますが、その各基準を超えないための風量という意味です。
ザイデル式に基づく居室の換気量
必要換気量:30㎥/(h・人)(※おおよその数値にしています。)
条件:気積5.6㎥の中に1人居るときのCO2濃度の許容値を1000ppmとする
ザイデルさんという人が検証した数値です。5.6㎥の囲いの中に1人入ってもらい、その囲いの中の二酸化炭素濃度が1,000ppmを超えないようにするには換気量がどのくらい必要だったかを検証した結果です。海外の人と日本人とではまた違うような気がしますが、そこは見なかったことにしましょう。
シックハウス対策上の有効換気量
住宅等の居室以外の居室:0.3回/h
居室:0.5回/h
シックハウス症候群を発症させない様にするための基準です。建築材料に使用されている化学物質(主にホルムアルデヒド)が原因になってこの症状は発症します。居室では1時間に0.5回以上、非居室では1時間に0.3回以上の換気を義務付けています。24時間換気が設置されているのは、この基準のためです。
地下建築物の換気
3種換気は使用不可
地下街などの場所では、3種換気での換気設計ができません。必ず給気側にファンを設けて屋外の空気が地下にも届く様にする必要があります。この地下に関しては今回は余談に近いですね。
実際にあった事例紹介
あなたはどう考える?
まず、図を見て頂きたいです。
とある部署から「ある部屋の換気の状況が心配なので換気量を測定して欲しい」と依頼があり現場の確認を行いました。すると床面16㎡程度、高さ2.4mの居室内に8人がぎゅうぎゅうになって仕事をしていました。換気量を測定すると300㎥/hある。1人30㎥/hなので8人で240㎥/hあれば良い。換気量は足りている状況だった。しかし、この光景を目の当たりにすると、連絡をくれた人が心配になった気持ちが分かった。何か他に問題がありそうだけど何だろうか。
私はこう回答した
施設を管理するものとしては換気量も申し分ないため異常がないと言わざるを得ない。ただ、このすし詰め状態が心配なのだと思うが、これに関しては労働安全衛生規則に1人10㎥の気積(空間のこと)を確保する様に定められている。なので衛生委員会に要望を出して改善してもらって下さい。
・施設管理上では問題がないこと
・本質はワークスペースの問題であった
(労働安全衛生規則600条)
実はこの事例はビル管理の問題ではありません。ですがこの手の話はビル管理のほうに良く来ます。ビル管理者としては、換気の基準は下の2つだけ覚えていれば問題はありません。
・30㎥ /(h・人)
・窓の開口寸法が床面の20分の1以上ある
実際に使用されている部屋で、何か違和感(今回の様なすし詰め状態など)がある場合は労働安全衛生法からのアプローチも考えてみることをおススメします。
この事例で、本当に達成したい目的は、連絡してくれた人の心配ごとを解決に導くことなので、ビル管理者としての知識だけでは「こちらとしては異常ないとしか言えないので、あとは知りません」という状態になってしまう。
業務上の線引きとしてはもちろん間違っていません。むしろ正しい対応だと思います。ただ、その+1の知識があることで依頼をくれた人に次の問い合わせ先を提示でき「ありがとう」という言葉に変わることも多くありますよ。「分からない」を減らすために日々勉強しています。
さいごは結局資格のはなしに戻りますが、衛生管理者おすすめですよ!!と宣伝して終わります。ありがとうございました。